東京地方裁判所 昭和58年(ワ)11797号 判決 1986年8月25日
原告
株式会社カネボウファッションセンター
右代表者代表取締役
向坂一
右訴訟代理人弁護士
鈴木秀雄
被告
南風有限会社
右代表者代表取締役
波頭静晴
右訴訟代理人弁護士
高島良一
主文
一 原告の主位的請求を棄却する。
二 被告は、原告から金五〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、原告に対し、別紙物件目録一記載の建物のうち同二記載の部分を明渡し、昭和六〇年一一月八日から明渡ずみまで一か月金四八万一七六八円の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の予備的請求を棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
(申立て)
一 原告
1 主位的請求
被告は原告に対し、別紙物件目録一記載の建物のうち、同目録二記載の部分を明渡し、昭和五八年九月一六日から明渡しずみまで一か月金四八万一七六八円の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
被告は、原告から金五〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、原告に対し前項の建物を明渡し、前項の金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(主張)
一 請求原因
1 原告は、鐘紡株式会社(以下「鐘紡」という。)が銀座にファッションの殿堂を建設する目的で全額出資して設立した鐘紡の子会社であるが、昭和五二年ころから別紙物件目録一記載の建物(以下「本件ビル」という。)の建築に着手し、昭和五三年初めころから出店者を募集した。
2 原告と被告は、本件ビルの二階部分について、次のとおりの賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(一) 契約締結日 昭和五三年四月二六日
(二) 賃貸場所 別紙物件目録二記載の部分(以下「本件店舗」という。)
(三) 期間 引渡日(昭和五三年九月一六日)から五年間
(四) 使用目的 婦人服・婦人洋品雑貨小売業の店舗
(五) 賃料(共益費込み)毎月の売上高の一五パーセント
(六) 保証金 なし
3 本件ビルへの出店者は、全出店者を構成員とする銀座シグナス会(以下「シグナス会」という。)の会員となり、その運営に要する経費として入会金及び会費(販売促進費・親睦会費)を負担することになっており、被告は本件店舗に出店するのと同時に銀座シグナス会の会員となった。
4 原告は、昭和五八年三月一五日ころ被告に到達した書面で、本件契約の更新を拒絶する旨の意思表示をした。
5 右更新拒絶には、次のとおりの正当事由がある。
(一) 本件ビル賃貸の契約条件は、保証金(二階部分は坪当たり三一五万円)の預託を受け、賃料は固定賃料と歩合賃料の二本だてで支払を受けることを基本としていた。被告は、本件ビルへの出店を希望してきたが、銀座のビルに出店するのは初めてで、売上に不安があるから前記条件には応じられないと訴えたので、被告代表者がかつて鐘紡の関連会社に勤務していたことを考慮し、かつ、五年間出店してみてうまくいかなければ退去するし、うまくいくようであれば他と同様の条件で契約するという前提のもとに、本件契約を締結した。
(二) 本件店舗は、壁や間仕切りによって区画された室ではなく、床面でその範囲が特定されたいわゆるコーナー貸しに類するものである。
(三) 被告は、シグナス会の会費のうち、販売促進費を支払わない。原告は、被告が当初経営に不安があると述べていたので請求を見合わせていたが、経営のめどがついたと思われる昭和五七年四月二七日ころ被告に到達した書面で支払を求めたのに対しても、支払わない。
(四) クレジット扱いの売上代金は、クレジット会社の手数料五パーセントを控除した額が原告の銀行口座に振り込まれるので、それをそのまま被告に支払ったところ、五パーセント不足であるとしてその支払を求めた。
(五) 被告代表者の原告の従業員に対する態度が粗暴であり、日ごろ応対する女子社員が同人との接触を極度にいやがり、退職した者がある。また、子会社の役員が親会社の社長に直訴されることを恐れる心理をつき、度々鐘紡の社長に直訴して原告の被告に対する要求を阻止する態度に出た。
(六) 売上努力を怠り、同業種他店の昭和五七年度売上平均指数を一〇〇とした場合、昭和五九年度の平均指数は一〇九と上昇しているのに、被告は九五と下降している。歩合賃料だけで賃料増額請求もできない原告の賃料収入に及ぼす影響は大きいし、シグナス会全体の売上士気に及ぼす影響も大きい。
(七) シグナス会の運営規定に違反し、独自にバーゲンセールを開催した。
6 本件は、営利を追及する商人間の関係であり、また、被告はシグナス会という組織体の構成員としての信頼関係を破壊したのであるから、正当事由の判断は大幅に緩和されるべきものと考えるが、原告は、予備的に、昭和六〇年五月七日の本件口頭弁論期日においてその補完金五〇〇万円を提供する旨の意思表示をする。
7 昭和五八年四月から九月までの本件店舗の賃料額の平均は、四八万一七六八円である。
よって、原告は、被告に対し、賃貸借契約終了に基づき、本件店舗の明渡し(予備的に原告が五〇〇万円を支払うのと引き換えに)と、昭和五八年九月一六日から明渡ずみまで、一か月四八万一七六八円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。
二 認否及び被告の反論
1 請求原因1ないし4、7の事実は認める。
2 同5の正当事由の存在は争う。
(一)の被告代表者がもと鐘紡の関連会社に勤務していたことは認めるが、その余は否認する。被告は、本件ビルの建築中に、原告が出店者を求めていることを知り、原告の担当者に契約条件を尋ねたところ、多額の保証金を預託すること、賃料は固定額とするとのことであったので、そのような条件では採算がとれないとして賃借することを断った。ところが原告は、賃借することを強く求めたので、被告は、保証金を預託せず、賃料は売上高の一五パーセントの歩合制とするならば賃借してもよいと提案し、原告がそれでもよいから出店してもらいたいというので、本件契約を締結したのである。
(二)の本件店舗が壁等によって区画された室ではないことは認める。
(三)の販売促進費は、被告が原告に対して支払う賃料のなかから原告がシグナス会に支払う約束であり、(四)のクレジット扱いの売上代金は、全額を被告に支払う約束であった。現に原告は、昭和五七年四月までは、右約束どおり履行していた。
(五)は争う。
(六)の被告の売上が減少していること、(七)のバーゲンセールをしたことは認めるが、それは原告が本件契約関係が終了したと主張し、被告をシグナス会の会員として取り扱わなくなった後のことである。
3 同6は争う。本件ビルは、建築当初は各階とも出店者がいたが、逐次退去して五階は完全に空室となり、各階にも空いた区画が存在する。原告には自己使用の必要性等の正当事由はない。
(証拠)<省略>
理由
一請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。よって以下、本件更新拒絶の正当事由の有無について検討する。
1 本件契約締結の経緯
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件ビルは、銀座通りに面する建物である。原告は、本件ビルの賃貸条件として
(1) 二階部分には婦人服販売業者を出店させる。
(2) 二階部分は坪当たり三一五万円の保証金の預託を受け、本件ビルの建築資金にあて、一〇年据え置きその後分割して返還する。
(3) 二階部分は坪当たり一八万九〇〇〇円の敷金の預託を受ける。
(4) 二階部分の賃料は、固定家賃として月坪当たり三万一五〇〇円、歩合家賃として売上の二パーセントとする(坪当たり月七五万円の売上とすると歩合家賃は月坪当たり一万五〇〇〇円となり、固定家賃との合計は月坪当たり四万六五〇〇円となる。)。
(5) 二階部分の共益費は、月坪当たり八五〇〇円とする。
(6) 賃貸期間は二〇年とする。
ことを策定していた。
(二) 被告は、昭和五二年秋ころから条件次第で出店したいと申し出ていたが、その条件とは、保証金なしで売上の一五パーセントの歩合家賃(共益費込み)だけというものであった。
(三) 原告は、被告が銀座五丁目で婦人服の小売店を経営しているところから、被告が出店することによってその固定客を本件ビルに誘致できることを期待し、積極的に被告に働きかけていたが、契約条件が折り合わず、最終的に出店者を決定しなければならない時期が迫っても結論が出ない状態であった。そこで原告は、他に本件店舗部分の出店者を探す余裕がないまま、被告が月四〇〇万円ないし五〇〇万円を売り上げれば本来予定している収入の額に見合うと考え、被告が提示ずる条件に応ずることとした。期間は、原告側は一年長くても三年を提示したが、被告は経営が軌道に乗るためには最低五年を要するとして譲らなかったので、原告は五年後に他店と同様の条件に改定されることを期待して五年とすることに同意した。
(四) 敷金は、原告が策定した条件に従い、一五六万八七〇〇円が差し入れられた。
2 原告の本件店舗からの収入
(一) <証拠>によれば、被告の月平均の売上は左記の上段のとおりであることが認められ、家賃額は計数上下段のとおりとなる。
年度 売上額 家賃額
昭和五四年 二二五万四〇五五円 三三万八一〇八円
昭和五五年 二四六万二〇四五円 三六万九三〇七円
昭和五六年 二二二万三三〇六円 三三万三四九六円
昭和五七年 二六九万一三七三円 四〇万三七〇六円
昭和五八年 三二八万〇九二二円 四九万二一三八円
昭和五九年 二七二万〇四六九円 四〇万八〇七〇円
昭和六〇年 二三〇万四四九二円 三四万五六七四円
(二) これと前掲乙第二号証とを対比し、他の店舗と同一条件(固定賃料、歩合賃料、共益費)で算出すると、その額は
昭和五四年 三七万七〇八一円
昭和五五年 三八万一二四一円
昭和五六年 三七万六四六六円
昭和五七年 三八万五八二七円
昭和五八年 三九万七六一八円
昭和五九年 三八万六四〇九円
昭和六〇年 三七万八〇九〇円
となり、昭和五七年ないし五九年は本件契約の家賃額の方が上回るものの、他の年はいずれも下回っており、本来預託すべき保証金の金利を考慮すると、被告が最も売上を上げた昭和五八年でさえ、月平均約五万八〇〇〇円少なく、原告は他より少ない収入しかあげられない状態であることが認められる。
(三) さらに、後述するクレジット扱いの売上代金の五パーセントを原告が負担するとなると、原告は毎月右家賃額から右金額を控除した額しか得られないことになる。(成立に争いのない甲第五号証、被告代表者尋問の結果によれば、昭和五五年五月二六日から昭和五七年三月二四日までの右金額は、七三万二五三二円であることが認められる。
3 本件店舗の状況
本件店舗が壁等によって仕切られた室ではないことは当事者間に争いがなく、前掲各証拠によれば、本件ビルの二階は全体をひとつの婦人服売場と見立てて客に対応する形態の売場であること、本件店舗は、別紙図面のとおり、二階売場のほぼ中央に位置し、他店と異なり三方が通行用の部分に面していることが認められる。
4 販売促進費について
(一) <証拠>によれば、原告は、初め年間四〇〇〇万円を負担して本件ビルの宣伝、出店者全体のための販売促進を計ることにしていたが、一年後、それでは足りないということでシグナス会が二五〇〇万円を負担して合計六五〇〇万円の販売促進費をかけることになったこと、シグナス会は、会員に割り当てて二五〇〇万円を拠出することとしたが、被告は、一五パーセントの歩合賃料には販売促進費も含まれているとして支払わなかったこと、その額は、昭和五八年五月分は四万五二一四円、六月分は四万七七八二円、七月分は四万三四〇三円であること、右支払を拒否しているのは被告だけであることが認められる。
(二) 被告代表者は、販売促進費は賃料の中から原告が負担する約束であったという趣旨の供述をしているけれども、原告が負担することを約束したのは、年間四〇〇〇万円についてであると認められ、これは賃料収入からまかなわれるべきものではあっても、シグナス会が負担する二五〇〇万円は賃料収入とは別個のものであるから、この分まで原告が負担することを約束したとする部分は採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
5 クレジット手数料について
(一) 前掲各証拠によれば、次の事実が認められる。
(1) シグナス会のメンバーである各店がクレジット扱いで販売した商品の代金は、クレジット会社から五パーセントの手数料を控除した額が窓口である原告の預金口座に振り込まれ、原告がその金額を各店の預金口座に振り込む仕組みになっている。
(2) 被告は、歩合賃料であるから、売上の一五パーセントを計算する前提としてクレジット扱い分も一〇〇パーセント入金されるべきである主張し、原告も当初はクレジット会社からは九五パーセントの額しか支払われないのに、被告に対しては一〇〇パーセントの額を支払ってきた。しかし、昭和五七年四月に、それが誤りであり、また、被告の経営も軌道に乗り、特別扱いをする理由はないと判断して、前記の過去に原告が負担した分の合計七三万二五三二円の返還を求め、以後はクレジット会社から支払われた額だけを被告に支払ってきたところ、被告は、五パーセント分不足であるとして支払を求めている。その額は、昭和五八年六月分は四万一二五六円、七月分は三万八三八五円、八月分は四万一六八〇円である。
(二) 被告代表者は、クレジット扱いの手数料は原告が負担する約束であったという趣旨の供述をしているけれども、クレジット会社から九五パーセントしか支払を受けないのに被告に対し一〇〇パーセントを支払うということは、原告が被告から支払を受ける賃料のなかから、右の差額五パーセント分を払い戻すことにほかならず、原告の賃料収入は、毎月約四万円程度少なくなることになる。歩合賃料の定めが、本来被告が負担するべきクレジット会社に対する手数料の額を控除した額を基礎として算出されるべき合理的根拠はないし、被告代表者が言う三割程度の粗利から原告に一五パーセントの賃料を支払い、五パーセントのクレジット手数料を支払うと一割しか残らず経費も出ないということは、売上の全部がクレジット扱いの場合にはともかく、現金販売が主体であると認められる本件の場合には、計数上も納得できることではない。被告代表者の右供述部分は採用することができない。
原告が、昭和五七年三月二四日までこれを被告に支払っていた事実から被告主張の約束があったことを推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
6 被告代表者の行動について
前掲各証拠によれば、本件契約締結当時、原告側の担当者は代表取締役北田孝三郎、販売促進部長大野光明であったが、昭和五七年ころには代表取締役は安川汜列に、担当部長は栗田晴正に交替していたこと、右交替後に、前記のとおりシグナス会員として負担すべき販売促進費の支払、クレジット手数料分の返還請求をめぐり紛争が生じ、被告代表者が鐘紡の秘書課長に円満解決の幹施を依頼したことが鐘紡の社長の耳に入り、原告側としてはこれを直訴と受けとって感情的対立が激化したこと、そのため被告代表者の原告側従業員に対する言動にも粗暴と受けとられる面が生じたことが認められる。
7 被告の売上実績について
(一) 前掲甲第一四号証によれば、本件店舗における被告の売上指数は、昭和五四年を一〇〇とした場合、昭和五五年109.2、昭和五六年98.6、昭和五七年119.4、昭和五八年145.5、昭和五九年120.6、昭和六〇年102.2、昭和五七年ないし五九年は良好であったが、その他の年はさほどの上昇をみていないことが認められる。
(二) 成立に争いのない甲第一五号証によれば、昭和六〇年は、前年同月比で前年より高いのは一二月の141.6パーセントだけで、他はすべて低く、最も低いのは二月の55.4パーセントと低迷していること、昭和六一年は、一月が前年比139.1パーセント、二月が同じく118.7パーセント、三月が同じく137.2パーセントと上昇したが、四月は75.1パーセント、五月は76.4パーセントと下降していることが認められる。
(三) 証人栗田晴正の証言、被告代表者尋問の結果によれば、婦人服販売業は、年度や季節により売上に変動があることが認められるけれども、右証言により成立を認め得る甲第一三号証によれば、同業種他店と比較しても、昭和五七年を一〇〇とした場合、昭和五八年こそ一一七と、他店(トラヤ一〇四、ノブ一〇四、レディバード九九、ディオール九八、カネボウブティック九八、ドレスブラック九六)を圧して売上を伸ばしたものの、昭和五九年には、他店が、トラヤ一二三、ノブ一二〇、ディオール一一七、ドレスブラック一一二、レディバード一〇六、カネボウブティック一〇三と上昇したのに対し、被告だけ九五と下降したことが認められる。
(四) 被告代表者は、売上が減少したのは、原告が本件契約は終了したとして被告をシグナス会からボイコットしたためであるという趣旨の供述をしており、これがその原因の一つであることは否定し得ないというべきであるが、証人栗田晴正の証言によれば、被告代表者や役員が本件店舗に来ることが少なくなり、店長まかせにして商品の選択、展示等に熱意を示さなくなったことが直接の原因であると認められる。
8 バーゲンセールについて
<証拠>によれば、被告は、昭和五九年一月、シグナス会が一九日から二三日までバーゲンセールを行ったのに先立ち、独自に一四日から一七日までバーゲンセールをしたことが認められる。しかし、右甲第一二号証の一及び被告代表者尋問の結果によれば、それは、シグナス会が被告を会員と認めず、シグナス会としてのバーゲンセールに加えなかったことによるものであると認められる。
二以上の事実に基づき判断するに、本件契約は、被告代表者がもと鐘紡の関連会社に勤務していたこと、被告が銀座で婦人服小売業を営んでいるところから原告としても出店を希望していたこととがあいまって、他店よりは被告に有利な条件で締結されたものであると認められ、原告が、五年後には他店と同一の条件に改めることも期待していたことは十分にうかがえるところである。しかしながら、五年の期間満了時は、昭和五八年に急速に業績を伸ばしたのが安定に向いはじめた時期であり、被告としてもさらに賃借を継続する必要があったことは明らかである。したがって、このような時期に、前項2、4ないし6の事実があるからといって、更新を拒絶する正当事由があるものと認めることはできない。
よって、原告の主位的請求は理由がなく、本件契約は、原告の更新拒絶の意思表示にもかかわらず更新され、期間の定めのない賃貸借関係として存続したものというべきである。
三1 原告が、昭和六〇年五月七日の本件口頭弁論期日において、予備的に、正当事由の補完金五〇〇万円を支払うのと引き換えに本件店舗の明渡を求めたことは、本件記録上明らかであるところ、右は、更新拒絶に基づく主位的請求が排斥される場合を慮って、その後に生じた事由を加え、補完金の提供をして本件契約の終了を主張する意味で、解約の申入れと同視することができるというべきである。
2 先に認定した1、2、4、5、7の事実、特に被告の売上低下は直接に原告の家賃収入に影響し、賃料増額請求もできないという事実関係のもとで、被告が他店と同一条件ないしこれに近い条件に改めることに応ずるならともかく、原告に対し、これ以上従前と同一の条件で本件契約関係を維持すべきであるとする合理的根拠は見出せない。
3 被告は銀座五丁目に婦人服小売業の店舗を有しており、本件店舗を明渡すことの不利益は、同じく営利を追及する商人同士として、これを当初の条件のまま賃貸する原告の不利益と対比し、五〇〇万円の支払を受けることによって回復されるべきものと認められる。
4 よって、本件契約は、原告が右意思表示をした日から六か月後である昭和六〇年一一月七日の経過により終了したものというべきである。
四昭和五八年四月ないし九月の本件店舗の賃料額の平均が四八万一七六八円であることは当事者間に争いがなく、そのころ被告が最も売上を上げていたこと及び解約の効果が生じた昭和六〇年当時は、月平均の賃料額が三四万五六七四円であったことは、前記一、2、(一)のとおりである。しかし、同(二)のとおり、他店舗と同一条件で算出した額は三七万八〇九〇円であり、これに保証金の金利相当分を加えると四八万一七六八円を下回ることはないから、賃料相当損害金の額は、右金額をもって相当と認める。
五以上により、原告の主位的請求を棄却し、予備的請求を賃料相当損害金の起算日を昭和六〇年一一月八日とする限度で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。仮執行宣言は相当ではないから、これを付さない。
(裁判官大城光代)
別紙物件目録
一 東京都中央区銀座三丁目二番地九・二番地一・二番地一六・二番地二・二番地二五所在
家屋番号二番九
鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根地下二階付八階建店舗
床面積 延5573.19平方メートル
二 右建物の二階596.63平方メートルのうち、別紙図面の赤斜線で表示する部分27.33平方メートル
別紙図面<省略>